すすむ医療 心血管インターベンション
心血管インターベンションは、心筋梗塞や狭心症など虚血性心疾患の治療法の一つです。中でも急性期の治療を必要とする心筋梗塞に多く適用されます。 心臓は、血液を体に送り出すために拡張と収縮を繰り返えしています。その伸縮を担っているのが心臓の壁を構成している筋肉、つまり「心筋」です。この心筋が必要とする酸素を運ぶ血管が、心臓を冠(かんむり)のように覆っている冠動脈です。
この冠動脈が動脈硬化などの原因で狭くなり、心筋が酸素不足を起こし胸が苦しくなるなどの症状がでる病気が「狭心症」です。さらに冠動脈が完全に詰り、心筋が酸素不足で壊死を起こしてしまっている状況や壊死を起こしかけている状況が「心筋梗塞」です。
詰まった血管をなるべく早く再開通させる
―「心血管インターベンション」とはどういった治療法なのでしょうか?
インターベンションは直訳すると「介入」という意味になります。つまり、「心血管に何かを入れる」ということになります。
その何かとは「カテーテル」と呼ばれる直径2mmほどの管状の治療器具で、これを太ももの付け根、手首、ひじ、などに小さな穴をあけて血管を伝い、異常のある心臓の冠動脈に到達させて治療を行う方法です。
カテーテルの中にはさらに細いガイドワイヤー(針金)が通っていて、モノレールのようにバルーンが伝い、冠動脈の狭くなったところでバルーンを広げて血管の詰まりを取ります。
―この治療法の有効性はどういったところですか?
心筋梗塞は、がんに次いで致命率の高い病気ですが、詰まってしまった血管をなるべく早く再疎通・再開通することで、救命率は格段に上昇します。
心血管インターベンションは、開胸するバイパス手術に比べ圧倒的に早く、治療を施すことができます。
また、心血管インターベンションは、体に小さな穴をあける程度の傷ですみます。そのため回復も早く、患者さんにとって低侵襲な治療法であると言えます。
―心血管インターベンション治療のリスクはありますか?
この治療は、動脈に穴をあけ、カテーテルを挿入します。動脈は心臓から送りだされた血液が勢いよく流れている方の血管ですので、方法を誤ると多量な出血を引き起こします。テレビで見るようなピューっと吹き出るような勢いです。
治療後に管を抜く時は、出血や血腫などのトラブルを起こさないように注意が必要です。これまでは、太ももの付け根からカテーテルを挿入することが一般的でしたが、止血に時間がかかること、患者さんが痛みを感じることがあるなどの理由から、今ではさらに細いカテーテルを手首の動脈から挿入することが多くなっています。
こうすることでトラブルが減り、患者さんの安静度が緩和されました。合併症のリスクもありますが、医療技術が進み、現在では命に関わるようなものは、0.4%未満となっています。
リスクを下げるために進歩し続ける
―この治療方法にはどのような進歩がありましたか?
詰まった血管を広げる方法として、当初はバルーンだけを用いていました。しかし、バルーンで冠動脈を広げるときに冠動脈の内側の壁を傷つけてしまうことがあります。そうすると、緊急バイパス手術も必要になりますし、傷ついた壁の細胞が増殖して再び冠動脈が狭くなる「再狭窄」を起こす場合があります。
そこで登場したのが、ステント治療(ステント留置療法)です。ステントと呼ばれるステンレスなどの金属でできたメッシュ状(網目状)の筒をバルーンにかぶせ、それをカテーテルの中に通っているガイドワイヤーで冠動脈の狭くなった部分に通します。そして、バルーンをふくらませてステントを広げます。バルーンはすぼめて取り除きますが、ステントは冠動脈の狭くなった部分に広がった状態で残すので、結果として冠動脈が広がり、血流を正常に保つことができます。
それでもまだ、ステント内で再狭窄を起こす率が30%、つまり10人治療すると3人の患者さんは6か月後にもう一度カテーテルを広げる必要がありました。
それに対応するものとして登場したのが、薬剤溶出性ステントです。これは、ステントに再狭窄を予防する薬をあらかじめ塗ってあるものです。
―ステントはずっと血管内にある状態なのですよね?
血管内にステントが残ることを気にされる患者さんはとても多いです。基本的に人体に害はありませんが、CTを撮ると異物として写ったり、将来的にバイパス手術をするときに邪魔になったりすることがあります。しかし最近では、生体吸収性のステントが開発されました。これは埋め込んでから2年半から3年くらいで溶けてなくなります。これは今世界で臨床実験が始まっていて、世界で100施設・1,000人の患者さんを登録して経過を見ています。今の所は良い成績が出ています。新しい装置の許可を取るには、まず経過をみてから、実症例で承認を得る必要があります。三井記念病院では、冠動脈カテーテル治療のこれまでの歴史とチームの活動が評価され、この新しい治療法の治験が認められました。私はこれまで5人の患者さんにこの新しい治療を施しました。
体制が整った病院でいち早い治療を
―ほかに三井記念病院が冠状動脈疾患に対してとられていることはありますか?
心筋梗塞の場合であれば、何よりも早く血管の詰まっている部分を開通させることが重要ですので、三井記念病院では、「胸が痛い」という患者さんが救急車で到着してから20分~30分以内にカテーテル治療が始められる体制を整えています。
また、365日24時間体制で循環器の医師が待機していますし、オンコール体制により、当番が直ちに駆けつけます。
不幸にも心筋梗塞を起こしてしまったら、体制が整っている病院にいち早く搬送してもらい、詰まったところを再開通してもらうことが大事です。三井記念病院は、年末年始を含め、このような治療体制が整った病院であると自負しています。
―三井記念病院は、「東京都CCUネットワーク」にも加盟されていますね。これはどういった経緯ですか?
CCUとは冠疾患集中治療室のことで、主に心筋梗塞などの冠状動脈疾患の急性危機状態の患者を収容し、救命を第一に各専門職が一つのチームとなり、厳重な監視下で持続的に管理する特殊・集約的な部門のことです。三井記念病院には、CCUと同じ機能のCICU(冠疾患集中治療センター)があります。
東京都では、急性心血管疾患に対して、迅速な救急搬送と専門施設への患者収容を目的に、CCUを有する医療施設と、東京消防庁、東京都医師会ならびに東京都福祉保健局で組織した「東京都CCUネットワーク」を構築しています。できる限り速やかに一人でも多くの心疾患患者を発症場所から専門施設に収容し、早期に専門的治療を行える体制を地域で組織化しています。これにより、救急隊の搬送先選定が迅速となり、搬送時間が短縮し、心肺停止を起こしやすい発症初期の危険な時間帯にCCUへ収容できるようになりました。
三井記念病院は「東京都CCUネットワーク」に加盟しているので、救急隊から電話が来たら、どうしても受け入れられない状態でない限りは、断らずに対応しています。
―狭心症や心筋梗塞を予防することはできますか?
心疾患の予防は生活習慣の改善から
心筋梗塞を含む虚血性心疾患では、高血圧症が悪影響を及ぼすことが分かっています。そのため、タバコはやめていただきたいですね。また、太っている方は痩せて、悪玉コレステロールを減らしましょう。生活習慣の改善が動脈硬化を防ぎ、結果として狭心症や心筋梗塞を遠ざけることにつながります。
心血管インターベンション治療
- 太ももの付け根、手首、ひじなどに小さな穴をあけて、バルーンの付いたカテーテルを血管に挿入し、血管が狭くなったところまで到達させる
- バルーンを広げ、狭くなった血管を広げる
- バルーンが膨らむことで、ステントが広がる
- バルーンをすぼめ、カテーテルを抜く
田邉先生が解説
「狭心症・心筋梗塞を引き起こす動脈硬化の危険因子」
◆喫煙 ◆ 糖尿病 ◆高血圧 ◆ストレス・疲労 ◆ 肥満 ◆高脂血症 ◆高尿酸血症
動脈硬化は、ある日突然なるわけではありません。毎日の食事や運動などの生活習慣に気をつけるだけでも、予防・改善することができます。また精神的ストレスは、血管を収縮させ血圧をあげてしまうので、ご自身にあったストレス解消法を見つけるのもおすすめです。
出典:三井記念病院広報誌『ともに生きる』(Vol.03、2012年8月2日、三井記念病院 広報誌)