がんに立ち向かう 神経膠腫(グリオーマ)

臓器は、いずれも重要な役割を持っていますが、とりわけ『脳』は、生命維持や記憶、感情のコントロールをつかさどる重要な臓器と言えます。

その脳や脳を取り巻く組織にできる様々なタイプの腫瘍を総じて『脳腫瘍』と呼びます。脳腫瘍は、10万人に40~50人程度が罹患するとされ、乳幼児から高齢者まであらゆる世代にみられるのが特徴です。

脳腫瘍の中でも最も多くみられるのが、神経膠腫(グリオーマ)です。

脳を形成している細胞は大きく分けると、手足を動かすなどの役割を担う「神経細胞」と、神経細胞を守り栄養を与えるなどの役割を担う「神経膠細胞(しんけいこうさいぼう)」に分かれます。神経細胞1個に対して、神経膠細胞は100から1,000個もあります。その神経膠細胞にできる腫瘍を神経膠腫といいます。

脳は機能局在。腫瘍の発生場所で症状が異なる

―神経膠腫(グリオーマ)はどのような病気でしょうか?

神経膠腫は脳にできる悪性腫瘍の中で最も多く、脳のほぼ全域に発生する可能性があります。

一口に神経膠腫といっても、発生した場所、進行度により症状や治療法が異なってきます。

脳は機能局在と言って、部位によりつかさどる役割が違うため、例えば、運動神経に腫瘍ができれば手足の動きが悪くなるという症状が出ますし、場所が異なれば視野が狭くなるなどの症状が現れます。また、別の症状として、成長する腫瘍により脳内の圧力が高くなり、頭痛やむかつきを繰り返すなどの症状も現れます。

―早期に発見する方法はありますか?

運動神経に腫瘍ができれば、それがどんなに小さくても体の動きに支障が出るため、比較的早期に発見することができます。また神経膠腫により神経線維が壊されると脳波に異常が出て「てんかん発作」が起きる場合があります。てんかん発作が起きた場合は、病院で一度検査をされることをお勧めします。

また、言葉がうまく出ない、じわじわとひどくなっていく頭痛や一日の中で痛みが変動するような頭痛がある場合は、MRIで検査を受けられるとよいでしょう。ただし、症状が出にくい場所にできることも多く、発見できず手遅れになる場合もあります。

神経膠腫の症状

  • 運動障害
  • 感覚障害
  • 言語障害
  • 視覚障害
  • 頭痛
  • てんかん

病理検査で進行度合いを診断

―神経膠腫が悪性か良性かで治療法は異なりますか?

神経膠腫は、WHO(世界保健機関)が定めた悪性度の判定基準により、4段階に分類されています。一番悪性度が高いグレード4は「多形性膠芽腫」と言われ、進行が非常に早く、生存期間は1年以内という恐ろしい腫瘍です。グレード3以上の進行度の場合は、神経膠腫が周りの細胞に浸み込むように成長しているため、正常な脳組織との境界が分からなくなり、手術で神経膠腫を全摘出するというのは非常に難しく、術後の放射線治療と抗がん剤治療の併用となります。

―神経膠腫のグレード分類は、どのように行うのですか?

まずMRIなどで腫瘍の場所、大きさを確認します。神経膠腫の場合、グレード1または2の場合でも、10年から20年かけて浸潤しながら確実に大きくなっていくため、開頭して取り除く手術を行います。手術で取り除いた腫瘍の一部を検体として病理検査にかけ、病理の先生と共にグレード1から4の段階の診断を付けます。

―なるべく手術で、腫瘍を取りきるのが望ましいのでしょうか?

手術による全摘出が一番望ましいですが、悪性の場合は先ほども述べましたように、浸潤しているため取りきるのは難しく、術後の放射線や抗がん剤治療が重要になってきます。運動神経に食い込んでいる腫瘍を無理に取り、結果として運動神経を傷つけ麻痺などの症状が出てしまっては、予後の生活やリハビリ、治療への意気込みを削いでしまう可能性があるので、近年の治療では無理に腫瘍を取るということはしません。

しかし、最新の医療技術では、手術中に運動神経を刺激して手足の筋肉の動きを確認し、どこまで安全に腫瘍の摘出が行えるかもわかるようになりました。

神経膠腫(グリオーマ)のWHO型分類と特徴

  病理検査の特徴 経過 生存期間(中央値) 治療法
グレード1 増殖はあまりしません 腫瘍が取れれば経過は良好です 10年以上 手術
グレード2 びまん性星細胞腫とよばれ、増殖能は低いが、脳に浸潤する性格をもちます 再発した場合は悪性に変化する可能性があります 7~9年 手術 (腫瘍が全部取れなければ 放射線治療も検討します)
グレード3 多形性、核異型、核分裂像などの悪性像がみられます 治療の手を尽くしても予後はよくありません 2~3年 手術、放射線治療、抗がん剤
グレード4 高い腫瘍細胞密度、多形性、退形成、壊死がみられます 最重症であり残念ながら長期の生存は期待できません 1年以内 手術、放射線治療、抗がん剤増殖はあまりしません

血液脳関門を突破する画期的な抗がん剤の登場

―取り切れない腫瘍に対しての治療法はどのようなものがありますか?

まず病理検査で腫瘍の性質を細かく調べて、放射線治療や抗がん剤治療を行います。

神経膠腫の場合は、放射線治療だけ、抗がん剤治療だけということはなく、両方の治療を行います。

約10年前に、「テモゾロミド」という悪性の神経膠腫に対する画期的な抗がん剤が登場しました。それまでは、悪性の神経膠腫に対して薬はほとんど効果がなかったのですが、この薬は非常によく効き、平均寿命が半年から1年延びるという結果も出ています。抗がん剤療法の中では目を見張る進歩です。テモゾロミドと放射線治療の組み合わせが現在の悪性グリオーマ治療で最も効果的です。

―なぜこの抗がん剤は効果が発揮できたのでしょうか?

脳には血液脳関門という、血中から脳内への薬物の移行を制限する機能が働いているため、薬が脳に届かずその役割を果たせませんでした。テモゾロミドは分子量が非常に小さく、血液脳関門を突破し患部に届きやすいため効果が表れました。

院内・院外と連携した集学的治療を展開

―三井記念病院では、神経膠腫の患者さんに対してどのような治療を展開されていますか?

神経膠腫は多くの場合、外科手術に加え放射線治療、抗がん剤治療が必要ですし、治療プランを計画するには正確な病理診断結果を用いますので、院内の放射線治療科、神経内科、病理診断科と連携し、集学的治療に取り組んでいます。

三井記念病院では、病理診断科の先生が常勤しているので、手術中に病理診断を行えます。術中迅速診断といって、手術中わずか10分から15分の間に、この患者さんの神経膠腫がどのグレードなのかを簡易的ながらも病理診断できるというのは、執刀する我々にとっても、患者さんにとっても心強いです。

―この病には、どう立ち向かえばよいでしょうか?

脳の腫瘍は、麻痺などの病状がでることがあるので、患者さんにとってもご家族にとっても辛いことが多いのは事実です。でも私は、「がんと闘うな」ではなく、治療を開始した初期は、とにかくこの病気と「とことん闘って欲しい」と思っています。私たち医療スタッフは患者さんと共に、できる限り病気と闘います。病理診断の専門医が正確に診断を付け、我々外科医は手術で新たな神経症状は出さないように慎重に腫瘍を可能な限り取り除きます。

現在の医療技術では、合併症や麻痺や失語症などの後遺症を出さず安全にできるだけ多くの腫瘍を摘出することが可能です。その上で、最もその時点で効果的とされる放射線、抗がん剤治療を続けてください。

ただし、再発がみられたり、薬の効果が得られない時は、無理な治療は続けずに、残された人生をゆったりと過ごすという判断を、ご家族とともに導きだすことも大切なことだと思います。

中口先生が解説
「脳に良い生活」

脳も、心臓や肝臓と同じように毎日の食事やアルコール、たばこを制限することで病気のリスクを下げることができます。また、いろんな分野に興味を持ち、新しいことを覚えるのに積極的でいてください。ストレスを貯めない生活を心がけることも大切です。

出典:三井記念病院広報誌『ともに生きる』(Vol.04、2012年11月19日発行、三井記念病院 広報部)

関連リンク

中口 博 (脳神経外科 部長)

中口 博脳神経外科 部長

1989年
山形大学医学部 卒業
東京大学医学部附属病院 脳神経外科 研修医
1995年
諏訪中央病院 脳神経外科 医長
1997年
東京厚生年金病院 脳神経外科 医長
1999年
陽正会寺岡記念病院 脳神経外科 医長
2004年
帝京大学医学部附属市原病院(現 帝京大学ちば総合医療センター) 脳神経外科 講師
2010年
帝京大学ちば総合医療センター 脳卒中センター 准教授
2012年
三井記念病院 脳神経外科 部長
学会認定
日本脳神経外科学会認定脳神経外科専門医・指導医・学術評議員
日本脳卒中学会認定脳卒中専門医
日本脊椎外科学会認定医
専門分野
脳卒中
脊椎病
脳腫瘍
頭部外傷
神経放射線画像研究
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