女性骨盤底再建術

女性の骨盤の中には、骨盤臓器といわれる膀胱、尿道、子宮、腟、直腸、肛門などが納められています。それらを下から支えているのが、骨盤の「底」にあたる骨盤底です。「底」といっても固い平らなものではなく、筋肉や靭帯の線維組織が鞍のような形で、曲面状に股からお尻を覆うように伸びています。線維組織であるため出産や加齢により傷ついたり緩んだりし、それにより骨盤臓器の重みを支えていられなくなってしまいます。すると腟の内腔へ臓器がはまり込み、さらには腟が体外へめくれてしまうことがあり、それを性器脱(子宮脱、膀胱瘤など)といいます。

女性骨盤底再建術は、骨盤臓器を持ち上げ、不具合のもととなるぐらつきを解消するための手術で、糸を用いる縫合固定やプラスチックメッシュを用いる補強処置などにより、弱体化した支持組織の機能を補い、骨盤底を再建するものです。

出産により骨盤底が傷つき、緩むと性器脱になる

―女性の骨盤臓器が腟を通ってはみ出してくる「性器脱」という現象が起きる原因はなんですか?

女性の骨盤には子宮があり、子宮に連なる腟が骨盤底を貫いています。臓器を支えるという役割だけであれば、骨盤底はもっと堅牢なつくりでもよいのですが、女性の身体は胎児を生み出すため、「支える」という機能に負けず劣らず、「通過させる」という機能を元から備えています。「通過させる」機能が求められる分だけ、女性の骨盤底は男性のものよりしなやかで開きやすいのです。

このような構造であるため、妊娠出産を経験した骨盤底はしばしば傷つき、子宮や腟が下がりやすくなっています。これが後年に性器脱の発生する素地となります(図4)。

一方、性器脱になった女性を診察すると、妊娠出産による骨盤底損傷以外の問題が見つかることも少なくありません。ひとつは、排泄時のいきみ動作です。加齢によって尿や便を排出する能力は低下し、人によっては排尿や排便のときにいきみを多用するようになります。排泄動作における強いいきみは膀胱瘤など性器脱の原因になります。性器脱のできる原因として、膀胱そのものの排出能力の不足は見逃せない要素です。

その他、足腰の衰え、腰椎変性疾患(椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症、腰椎すべり症)、腰痛対策のコルセット類、呼吸器アレルギーによる度重なる咳やくしゃみなども、性器脱の発症や進行に関与しています。

骨盤底は社会生活の基礎資源です

―ややデリケートな問題ですが、当の女性は性器脱という病気にどのように向き合っているのでしょうか?

性器脱や尿失禁の症状は、生命に係わる問題ではなく、また、家族や仲間うちでも話題にしづらいため、情報不足で対策が一日のばしになる傾向があります。私の患者さんでも、立ち上がるだけで漏れてしまうほどの深刻な尿失禁になるまで受診しないでいた方がいます。

QOL(Quality Of Life=生活の質)の面からみると性器脱は大きな問題です。尿漏れを気にして外出を避け、人付き合いやレジャーに対しても消極的になってしまいます。高齢の場合は、排泄関係のトラブルは自立した生活を脅かす最大の要因です。

現在、女性の社会進出が進み、男性と職場で肩を並べて働いた女性の多くは、出産してからもまた元のように仕事をしたいと願っています。そのためにもぜひ、自身の身体に骨盤底という重要なパーツがあることをいつも忘れず、骨盤底を大切にしてもらいたいですね。

骨盤底再建術を受ければ、性器脱が治る人がたくさんいます

―「骨盤底再建術」は、どのような場合に必要ですか?

大きく分けて3つの場合があります。まず、子宮の脱出や腟のめくれで、局所がこすれたり痛んだりする、あるいは挟まったような不快感がある場合です。

次に、排尿関係の不具合で、これは下がりやめくれの程度とは別に、すっきり排尿できない、いつもトイレに行きたいと感じるなど、膀胱尿道の刺激症状がある場合です。

3つ目は、子宮がはみ出してくると人間の身体は無意識に腰の角度を変えてかばうものらしく、性器脱のために腰痛になる方がよくいます。性器脱が腰痛や腰のだるさの原因になっている場合は、手術治療は受ける価値があります。

骨盤底再建術は、所要時間や出血量からみてそれほど負担の大きい手術ではないので、年齢制限はありません。心身の健康状態に問題がなければ、年齢が高くても手術をお引き受けしています。

―「骨盤底再建術」とはどういった手術ですか?

ほとんどの場合、開腹手術ではなく、腟の中から切開して行う「経腟手術」となります。子宮は温存するのが原則ですが、例外的に子宮筋腫などのために摘除することがあります。

三井記念病院の標準治療では、手術時間45~60分、入院は7~8日間です。

手術の内容は、大まかに言って骨盤底の支持破綻の端緒となっている箇所を重点的に補強し、腟の前側と後ろ側の構造、つまり膀胱と直腸が相対して押し合う位置関係を再生することです。支持破綻の端緒となっているのは、ほとんどの場合に前腟から腟尖端にかけての領域のいずれかのポイントで、このポイントを見極めることが手術成功のカギになります。

支持破綻の端緒が低い位置にある、つまり腟の出口に近い部位から崩れてきている場合ほど、安定な状態に持っていくのが難しいということが言えます。子宮下垂は深い位置の支持破綻で、子宮を高い位置にしっかり縫い付ければ堅固に修復できます。一方、腟の出口近くの支持破綻には、多少なりともプラスチックメッシュなどの補強材が必要になります。

―「骨盤底再建術」に必要な検査は?

私たちは、原則として手術を受ける方全員に、手術の前にウロダイナミクス検査を行っています。この検査は膀胱と尿道の基礎的な性能を確認するためのもので、検査の結果を、手術処置の選択や手術成績の予測に役立てています。

膀胱と尿道の性能が良好な場合は、ストレートに骨盤底の支持不良箇所を修復するだけで期待通りの仕上がりが得られます。膀胱と尿道の性能が落ちているときには、ストレートな再建処置だけで最良の結果が得られるとは限りません。言うなれば、少々の『小細工』や『妥協』が必要になります。

―今後女性骨盤底再建外科はどのように進歩していくと思いますか?

まずは、骨盤底という身体の部位の認知度を上げることがここ20数年の課題でした。そして、骨盤底は筋肉や膜でできており、妊娠出産に際して、また日常動作の積み重ねによって傷んだり緩んだりするものであるということを一人でも多くの女性が理解することが、女性骨盤底の医学・医療が大きく進化するための推進力になると思います。

現在は、骨盤底再建術を行う際、補強材となるメッシュの使用量も少なくなってきています。異物反応の少ない人工素材を用いていますが、やはり体にとってプラスチックは異物ですので、使用量を可及的に減らすに越したことはありません。また、このメッシュに再生医療を応用する試みも始まっています。

中田先生が解説
「健全な骨盤底は、女性にとって一生の宝物です!」

◆若い頃

骨盤底の一部は筋肉です。ティーンエイジまでの年代は、足に合うヒールの低い靴でよく歩き、強い足腰を育成しましょう。

◆働き盛りの頃 妊娠・出産

妊娠出産するまでは、若い女性が骨盤底の衰えを感じることはほとんどありません。一方、女性のライフスタイルが変化して出産年齢が限界まで上昇しつつあり、アラフォーの出産で骨盤底の健康を失う女性が増えているのも現実です。

妊娠出産は、まさしく女性の骨盤底のクライシスです。出産後の女性には、アキレス腱ならぬ骨盤底というウィークポイントがあるのです。産後しばらくは、骨盤底の回復を促進するために、十分に身体を休めましょう。

経産女性は、特に骨盤底の衰えを感じなくても、40代になったら骨盤底トレーニングを励行しましょう。

◆中高年

尿失禁や頻尿は年齢のせいとあきらめている方が多いですが、中には性器脱に関係した症状である場合もあります。性器脱があるかどうかは、地域の子宮癌検診でも判定してくれます。子宮脱や膀胱瘤と関係ない尿失禁や頻尿については、生活が不自由になるレベルのものならば、かかりつけの診療所や泌尿器科でご相談ください。

出典:三井記念病院広報誌『ともに生きる』(Vol.06、2013年4月22日発行、三井記念病院 広報部)

関連リンク

 中田  真木 (産婦人科 医長)

中田 真木産婦人科 医長

1981年
東京大学医学部 卒業
東京大学医学部附属病院 産科婦人科 研修医
1983年
東京大学医学部 産科婦人科学教室
1986年
東京大学医学部 産科婦人科学教室 助手
1989年
総理府技官
1991年
フランス政府給費留学生 パリ第5大学
1995年
東京警察病院 産婦人科 医幹
2002年
三井記念病院 産婦人科 医長
学会認定
日本産科婦人科学会認定産婦人科専門医・指導医
日本女性医学学会認定医師・女性ヘルスケア専門医
母体保護法第14条指定医
日本排尿機能学会認定医
日本女性骨盤底医学会 経膣メッシュ手術認定医
専門分野
ウネギネコロジー
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