人工膝関節置換術

人間の膝関節は、立ち上がったり歩いたりするたびに、体重の負荷を受けながら屈伸させられます。そのため、ある程度の年齢をこえると、膝関節の軟骨がすり減ってしまいます。  軟骨は、硬い骨同士が直接ぶつからないように、クッションのような役割を果たしています。

軟骨がすり減ってしまうと、歩くなどの動作の度に、ふともも側の骨(大腿骨)とすね側の骨(脛骨)が直接ぶつかり合って骨が傷ついてしまい、骨の破壊と関節の変形が進行していきます。これを変形性膝関節症と呼びます。

三井記念病院では、変形性膝関節症の症状が進行し、ひどい痛みが伴う場合は、傷つき摩耗した軟骨と関節を削って金属等の部品をはめ込んで新しい膝関節をつくる、人工膝関節置換術という手術を行っています。

辛い膝の痛みを取る最速の方法

―「人工膝関節置換術」はどのような場合に必要となる手術ですか?

膝関節には、毎日どんな動作をするにもご自身の体重の負荷がかかっていますから、約350か所あるといわれている人間の関節の中でも非常にトラブルの多い関節のひとつです。  年齢を重ねると、変形性膝関節症という、関節軟骨が傷つき摩耗し、さらには膝関節の骨までが傷つくような病気にかかりやすくなります。

初期症状は、立ち上がりや歩き初めに痛みが生じるようになり、次第に正座や階段の上り下りが辛くなっていきます。この程度ですと、湿布を貼ったり鎮痛剤を内服したり、ヒアルロン酸を関節内に注入したりすることである程度症状を軽減させることができます。

しかし、病気が進行し、日常生活に支障のあるほどの痛みや、膝関節の変形が進行してしまい、膝をピンと伸ばせない状態まで進行してしまった場合は、人工膝関節置換術を勧めています。

―「人工膝関節置換術」とはどのような手術でしょうか?

簡単にいうと、傷んだ関節表面の骨・軟骨を型に合わせて切り取り、金属製の部品をはめ込んで固定し、さらに、関節軟骨の役割を果たす部品を挿入するような手術です。

自身の身体に人工物を入れる手術ですので、勧められた患者さんの多くは抵抗感を示されます。しかし、立ったり歩いたりした時の膝の痛みを取るには非常に優れた治療法で、QOL(Quality of Life=生活の質)は飛躍的な向上が期待できます。

この手術を受けた患者さんの多くが、『どうしてもっと早く手術を受けなかったんだろう』といわれますね。

―手術を受ける患者さんに年齢制限はありますか?

 人工関節において軟骨の役割を果たしている「ライナー」という部品は、軟骨同様、使いすぎると摩耗します。この術式が普及し始めたころは、まだ部品の性能が悪かったために耐用年数が短く、70代後半以上の患者さんを主に手術対象にしていました。

人工関節の開発・研究が進んだ最近では、部品の耐久性が進化し、耐用年数は15年以上といわれています。ですから60代の方でも手術を受けることができるようになってきました。

人工関節の術後のリハビリは大変重要で、歩行訓練のためにそれなりの筋力が必要となります。ですから、痛みのために歩かなくなり、筋力が落ちてから手術を受けるのではなく、自身の力でまだなんとか歩ける時期に手術を受けることをお勧めしています。術後のリハビリをやりとげれば、再び痛みなく歩くことができるようになり、痛みで遠慮がちになってしまっていた外出や旅行、色々な趣味にチャレンジできるようになるはずです。

ただし、いまだに人工関節の耐久性には制限があり、とくに運動量の多い方や若い方には人工膝関節置換術は勧められません。というのも、部品が摩耗・破損してしまい、人工関節を改めて入れなおす「再置換術」は、一般に手術成績が悪く、何度も再置換手術を繰り返せないからです。

人工膝関節の模型

院内連携で感染症のリスクを低減

―人工関節の素材は?人工物を人体に入れることのリスクはありますか?

人工関節の骨にはめ込む金属製の部品には、コバルトとクロムの合金などが用いられています。軟骨の代わりとなるライナーには、特殊なポリエチレンが使われています。金属アレルギーでなければ、部品が生体に悪影響を及ぼすことはありません。

人工膝関節置換術にとっての最大のリスクは、細菌感染です。特に糖尿病の患者さんは、細菌への抵抗力が下がっている恐れがあるので十分な注意が必要となります。それとは別に、人工膝関節置換術は高齢の患者さんが対象ですので、手術中・術後に、心臓・血管系のトラブルが起きやすいです。当院の場合、循環器科の先生が非常によく面倒を見てくださいます。術前の検査から術後のトラブル時の対処まで、十分な体制でサポートがありますので、患者さんには安心して手術を検討していただきたいですね。

―人工関節はどのようにして骨に固定するのでしょうか?

手術前に、下半身のレントゲン写真やCT撮影で骨の変形度合や関節のサイズを割り出し、骨の削除角度などを決めておきます。手術では、術前計画をもとに、ガイドなどの手術用の器具を用いて正確に骨を切り取ります。さらに、靭帯などのバランスを整えてから、適切なサイズの人工関節に骨セメント(医療用の接着剤)を塗って骨にはめ込んで固定します。

骨セメントではなく、人工関節の表面に細かい凹凸をつけて骨と固定させる方法もあります。骨セメントは骨髄からの出血を止める役割を果たしますし、また、骨セメントを使用した方が早くから歩くなどの動作ができるようになるため、当院では骨セメントによる固定方法を採用しています。

さらなる低侵襲手術を目指して

―今後「人工膝関節置換術」にはどのような進歩が期待できますか?

この術式は、1970年代に開始されてから、人工関節の素材そのものが著しく進化してきました。

術式も切り口を小さくする方法などが出てきていますが、現在注目しているのが、PS(I Patient Specific Instruments = 患者専用手術器具)を用いた手術です。PSIでは、3DCT画像を使い、コンピューター上で患者さんの荷重軸を算出し、骨切りラインを決めます。その情報から手術で骨を切る際のガイドとなる、カッティングブロックを作ります。このブロックは、患者さん一人ひとりのオーダーメイドであるため、これを用いて手術をすることで、より骨を正確に、設計図の通りに切ることができます。これにより手術時間が短くなるため、患者さんにとっても低侵襲で、たとえば出血や術後血栓塞栓症のリスク低減などが期待できます。

人工膝関節置換術の様子

リハビリは頑張った分だけ見返りがある

―この手術においてリハビリはどれほど重要になりますか?

人工膝関節置換術に限らず、リハビリは、頑張ったら頑張った分だけ見返りがあります。ちょうど、学校のテスト勉強みたいです。

患者さんが人工膝関節置換術で歩けるようになるのは、手術をうけたからではなく、患者さん自身が一生懸命にリハビリをした結果です。リハビリが十分にできなければ、どんな人工関節の手術も無駄になります。

当院で手術を受けていただいた患者さんは、みな積極的にリハビリを頑張っておられますね。辛い痛みから解放され、歩くのが楽しいと言ってくださいます。入院期間は3~4週間程度ですが、ほとんどの方が自力で歩いて退院されていきます。

山本先生が解説
「若いうちに丈夫な骨を作り、高齢になってから太らないことが重要です!」

変形性膝関節症にかかる患者さんの8割が女性です。

女性は妊娠や授乳でカルシウムが奪われ、また閉経後もどんどんカルシウムが放出されてしまうため、女性は若いうち(特に中学・高校のころ)に丈夫な骨をつくる必要があります。学生時代には何でもよいから運動をして体を鍛えてほしいですね。

また、中年期以降に太っていると、弱った下半身に過剰な体重の負荷がかかり、膝を痛めるリスクが上がってしまいます。ただし、食事制限だけのダイエットをしてしまうと、筋肉量が落ち、逆に老化を進めてしまいますので、プールでの運動など膝に負担をかけない運動で筋力をつけながら体重を落とす努力をしていただきたいですね。「膝が痛いから動かない、動かないから太る、もっと膝が痛くなる・・・」という悪循環に入ってしまいますよ。

出典:三井記念病院広報誌『ともに生きる』(Vol.07、2013年7月22日発行、三井記念病院 広報部)

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 山本  直哉 (整形外科 科長)

山本 直哉整形外科 科長

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