前立腺肥大症

前立腺は男性生殖器の一つで、膀胱のすぐ下に尿道を囲むようにあります。正常な場合は、栗の実ほどの大きさで、重量は成人男性で15~20g前後です。前立腺の主な働きは、精子の運動に重要な役割を果たす前立腺液という精液の成分を分泌することです。また、前立腺を形成する組織や筋肉が尿や精液のスムーズな排出に関係しているとも言われています。

前立腺肥大症とは、年齢とともに前立腺の内側の組織(内腺)の細胞が増え前立腺が大きくなること(前立腺肥大)で尿道や膀胱を圧迫し、排尿障害をきたすことを指します。

前立腺肥大症は言うなれば男性の老化現象。尿トラブルが気になり始めたら躊躇せず医師に相談を。

―前立腺が肥大する原因は何でしょうか?

前立腺が肥大する原因は現時点でははっきりわかっていません。しかし、前立腺肥大症の症状がある男性は60歳以上で50%以上、85歳になると90%以上に認められるため、加齢によるものと捉えていただいてよいと思います。ただし、前立腺肥大と前立腺肥大症は同一のものではなく、前立腺の内側の組織(内腺)の細胞が増殖し肥大した状態を前立腺肥大といい、前立腺肥大症は前立腺が肥大した結果、尿道を圧迫することにより尿の流れに抵抗が生じ、頻尿や尿意切迫、排尿障害などの自覚症状がある状態をいいます。

肥大した部分が尿道をどう圧迫するかで症状が変わるため、前立腺が肥大したからといってすべての方が前立腺肥大症かというと、そういうわけではありません。

―前立腺肥大症の症状はどのようなものがありますか?

ほとんどが尿に関するトラブルで、症状は大きく2つに分けられます。1つ目は「排尿症状」という膀胱にたまった尿を排出するときの障害です。排尿時に勢いがない、途切れる、時間がかかる、力まないと出ないなどの症状を指します。

2つ目は「蓄尿症状」です。肥大した前立腺が膀胱を下から押し上げるため、膀胱が敏感になり、頻尿、残尿感、尿意切迫感、切迫性尿失禁などの症状が現れます。これらの症状が重なることもあります。

―自覚症状が現れたらどうしたら良いでしょうか?

尿のトラブルは、一昔前までなかなか口に出しづらく、相談することに抵抗を感じる方も多くおられましたが、現在はマスコミの力もあり『自分は前立腺肥大症かも、病院に行ってみようかな』と思われている男性が増えていると思います。排尿行為は日常生活そのものですし、ここにストレスを感じるのはとてもつらく、生活の幅を狭めることにつながります。ですから『おしっこを出しづらい』、『夜何度もおしっこで目が覚めるのがつらい』などと思われていたら、躊躇せず、かかりつけ医や泌尿器科に相談してください。

―前立腺肥大症を放置しておくとどのような危険性がありますか?

自覚症状がありながらも放置しておくと、膀胱への負担が長期化し、膀胱が疲労し筋力が低下してしまい、症状がさらに悪化してしまいます。また、出きらない尿が溜まりそこに菌が増殖し、膀胱炎や膀胱結石の原因となる危険性もあります。最悪の場合は、尿が全くでなくなる尿閉の危険性もあり、さらに、尿閉に伴い腎不全を発症し、生命の危険にまでつながることもあります。

治療方法はより低侵襲に進歩し続けています。

―前立腺肥大症にはどのような治療法がありますか?

前立腺肥大症で受診すると、まずは排尿や蓄尿の症状を細かく列挙した問診票のようなチェックシートを使った排尿症状の確認があります。その後、患者さんご本人から具体的に困っている具合などお聞きし、治療方針を決めていきます。

前立腺の肥大が確認されても、自覚症状の重症度が低ければ経過観察ということもあります。医師が治療の必要性を判断したら、薬による薬物療法か手術療法になります。

デリケートな部分ですので治療について『薬は良いけど手術は嫌だ』という患者さんもいらっしゃいますが、もちろんよほどの重症でなければいきなり手術ということはありません。

近年は、薬が進歩しています。薬物療法は症状へのアプローチの仕方で3つのカテゴリーに分類されます。一つは前立腺の筋肉の収縮を緩和して、尿を出しやすくするものです。もう一つは、前立腺の中の男性ホルモンの代謝を下げ、肥大した部分を縮小させるものです。こちらのカテゴリーの薬について、以前は男性ホルモン全体に作用するため男性機能の低下も心配されていましたが、最近は前立腺の中の男性ホルモンにだけアプローチするよう改良され、そのような心配も減少しました。3つ目は、膀胱の筋肉に作用して、敏感になった膀胱をリラックスさせるものです。

手術による方法も大きく進歩しています。こちらもコンセプトは2通りあり、肥大した部分を取り除くものと、肥大した部分に熱を当て縮小させるものです。

肥大した部分を取り除く方法は、効果が早くはっきりと表れるため、現在当院ではレーザーを用いて、肥大した部分を取り除く手術を主流としています。

―前立腺がんへ進展はありませんか?

前立腺がんと前立腺肥大症はそれぞれ独立して発症するまったく別の病気です。前立腺肥大症が内腺で起こるのに対し、前立腺がんのほとんどは前立腺の外側(外腺)にできます。ですので、前立腺肥大症が悪化し前立腺がんになるということはありません。ただし、同時に発症することは充分に考えられます。

三井記念病院では、前立腺肥大症の診断時に必ずPSAという前立腺がんの血液検査を受けていただいています。前立腺がんは初期症状がほとんどありません。前立腺肥大症で医師に相談することが、前立腺がんの早期発見につながり、早期発見できれば根治治療も期待できます。

予防策が無い分、悪化させないよう生活習慣に気を付けましょう。

―前立腺肥大症を予防する方法はありますか?

残念ながらありません。前立腺が肥大する原因が確証されていない現在では、加齢とともにほとんどの男性がなる症状だと思いに留め、排尿に違和感を覚えたら躊躇せず、医師に相談することが良いでしょう。

ただし、すでに自覚症状がある場合は、悪化させないために気を付けていただきたいことがあります。前立腺肥大症が重症の方がお酒を多量に飲むと、アルコールにより膀胱の収縮力が低下するため、尿が出にくくなり、尿が全く出なくなる尿閉を誘発させてしまいます。また、OTC医薬品(市販薬)の風邪薬などの服用でも同じ危険性があるので、風邪薬を飲むときは必ず医師や薬剤師に相談してください。

◆国際前立腺症状スコア(IPSS)とQOL※スコア
(前立腺肥大症診療ガイドラインより引用)

どれくらいの割合で次のような症状がありましたか 全くない

  全くない 5回に1回の割合より少ない 2回に1回の割合より少ない 2回に1回の割合くらい 2回に1回の割合より多い ほとんどいつも
この1か月の間に、尿をしたあとにまだ尿が残っている感じがありましたか 0 1 2 3 4 5
この1か月の間に、尿をしてから2時間以内にもう一度しなくてはならないことがありましたか 0 1 2 3 4 5
この1か月の間に、尿をしている間に尿が何度もとぎれることがありましたか 0 1 2 3 4 5
この1か月の間に、尿を我慢するのが難しいことがありましたか 0 1 2 3 4 5
この1か月の間に、尿の勢いが弱いことがありましたか 0 1 2 3 4 5
この1か月の間に、尿をし始めるためにお腹に力を入れることがありましたか 0 1 2 3 4 5
  0回 1回 2回 3回 4回 5回以上
この1か月の間に、夜寝てから朝起きるまでに、ふつう何回尿をするために起きましたか 0 1 2 3 4 5

IPSS     点

  とても満足 満足 ほぼ満足 なんともいえない やや不満 いやだ とてもいやだ
現在の尿の状態がこのまま変わらずに続くとしたら、どう思いますか 1 2 3 4 5 6 7

QOLスコア     点

IPSS重症度 : 軽症(0~7点)、中等症(8~19点)、重症(20~35点)
QOL重症度 : 軽症(0 、1点)、中等症(2、3、4点)、重症(5、6点)

前立腺肥大症診療ガイドライン,日本泌尿器科学会,2011年,リッチヒルメディカル,p.33,表5, ©日本泌尿器科学会
※QOL(Quality of Life)=生活の質

榎本先生が解説
「これだけは気を付けて!前立腺肥大症を悪化させない生活」

前立腺肥大症は言うなれば男性の老化現象のひとつです。前立腺肥大症に絶対にならない方法はないため、毎日の生活に少しだけ気を遣っていただくのが良いですね。多量の飲酒や刺激の強い食べ物を避け、一日中座ったままではなく軽い運動などを取り入れて骨盤内の血液の循環を良くするようにしましょう。また、便秘にならないようにするのも重要です。

出典:三井記念病院広報誌『ともに生きる』(Vol.10、2014年4月22日、三井記念病院 広報部)

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榎本 裕 (泌尿器科 部長・がん診療センター 副センター長)

榎本 裕泌尿器科 部長・がん診療センター 副センター長

1994年
東京大学医学部 卒業
東京大学医学部附属病院 研修医
国立国際医療センター 研修医
1995年
東京大学医学部附属病院分院 泌尿器科
1996年
東京逓信病院 泌尿器科
1998年
東京大学 泌尿器科 助手
2004年
アメリカ ボストン大学 Research Fellow
2006年
東京大学 血液浄化療法部 講師
2007年
東京大学 泌尿器科男性科 講師
2012年
東京大学 腎疾患総合医療学講座 特任准教授
2013年
三井記念病院 泌尿器科 部長
2015年
がん診療センター 副センター長(兼任)
2016年
地域医療部 部長(兼任)
学会認定
日本泌尿器科学会泌尿器科専門医・指導医
日本透析医学会専門医
日本泌尿器内視鏡学会腹腔鏡技術認定医
日本内視鏡外科学会腹腔鏡技術認定医
日本がん治療認定医機構がん治療認定医・暫定教育医
専門分野
泌尿器悪性腫瘍
腎不全
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