骨髄異形成症候群(MDS)

血液は、「血漿(けっしょう)」という液体成分と、赤血球、白血球、血小板というそれぞれに特徴的な役割を持つ3種類の「血球」と呼ばれる血液細胞からできています。血球は、骨の中心部にある骨髄でつくられます。骨髄には「造血幹細胞」という血球をつくりだす“もと”となる細胞が存在しています。造血幹細胞は生涯にわたり細胞分裂を繰り返し、血球をつくり続けます。この造血幹細胞に何らかの異常が起こることで正常な血球が充分につくられなくなり、身体に様々な症状が出る病気を骨髄異形成症候群(MDS)と呼びます。

血液の製造元である「造血幹細胞」に起きた異常が原因の病

―骨髄異形成症候群とはどのような病気ですか?

高齢者に多い血液の病気です。血液の主な成分である血液細胞(赤血球・白血球・血小板)は、骨髄にある造血幹細胞でつくられます。血液細胞の製造元である造血幹細胞に何らかの原因で異常が生じると、そこで製造される血液細胞にも異常が出てしまいます。異常のある血液細胞は、数が足りなかったり、機能が不十分だったりします(造血不全)。そのような異常を持つ血液細胞が増えると、正常な血液細胞が減少し、結果的に貧血などの症状として表れます。症状は、赤血球、白血球、血小板のどこに異常が多いかで異なります。

◆赤血球の減少・機能異常:

 貧血(めまい、だるさ、動悸、息切れなど)

◆白血球の減少・機能異常:

 易感染性(感染が起こりやすくなり、発熱する)

◆血小板の減少・機能異常:

出血傾向(あざができたり、血が止まりにくくなったり、出血しやすくなる)

症状の出方には個人差があります。また血液中の幼若な白血球(芽球)の割合が多ければ多いほど病期は進んでいるとされます。

―白血病への進展はありますか?

未熟で異常がある芽球が骨髄の中で増えると、急性白血病に移行することがあります。数か月から十数年の経過で移行します。

◆各血球の役割

白血球 血小板 赤血球
体内に侵入してきた異物(細菌やウイルス)から体を守る免疫の働きがある。 赤血球に比べて数は少ないが、白血球には①好中球 ②リンパ球 ③単球 ④好酸球 ⑤好塩基球の5種類ある。 寿命 好中球: 数日/リンパ球: 数日~数年 出血を止める(止血)働きがある成分。赤血球や白血球より小さく、出血部位に集まって凝集し、血のかたまり(血栓)をつくって血管の損傷部分をふさぐ。 寿命 約7~10日 赤血球に含まれるヘモグロビンが酸素と結合し、全身に酸素を送る働きがある。赤血球は血液量の約40%を占めている。 寿命 約4ヶ月

自覚症状が分かりづらく原因が解明されていない病。だが、健康診断の血液検査で発見可能

―造血幹細胞に異常が生じる原因はなんでしょうか?

現時点では解明されていません。ですが、現在の医療では人間の遺伝子情報がすべて解析できるため、ある遺伝子に傷がつき、また、年齢を重ねるうちに別の遺伝子に傷がついて、そういうことの積み重なりが原因だと考えられています。ですから高齢者に多く発症する病気であると考えられます。

―自覚症状はありますか?

貧血やだるさなどは他の病気が原因でも起こりますし、症状から自分が骨髄異形成症候群だと判断することはまずないと思います。

しかし、骨髄異形成症候群の疑いは、健康診断で行う血液検査で見つけることができます。血球減少があったり、末梢血の白血球分画で芽球が見られる場合などは、骨髄異形成症候群を疑うきっかけになります。

血液検査結果の数値の異常は、ご本人が見られてもわからないと思いますが、健診先の病院で指摘されるか、健診結果をかかりつけ医に診てもらうなどすればわかると思います。

―骨髄異形成症候群を予防する方法はありますか?

原因が解明されていないため、残念ながら予防方法も確立していません。しかし、遺伝するものではありませんので、ご親族に骨髄異形成症候群の方がいらっしゃったからといって、ご本人も必ずなるわけではありません。

治癒は難しいが、症状を軽減する治療法が進歩している

―治療法にはどのようなものがありますか?

骨髄異形成症候群の治癒は、血液細胞の製造元である造血幹細胞を取り替える、造血幹細胞移植しかありません。しかし、病気の進行具合、年齢、全身の状態、ドナーの有無など条件があるため、誰もが受けられるものではありません。ですから多くの高齢者の患者さんには、治癒にはなりませんが、支持療法として骨髄異形成症候群の様々な症状を緩和するために輸血療法や化学療法を行います。

―三井記念病院での現在の主流な治療法は何ですか?

これまで当院では輸血が主な治療法でしたが、現在は患者さんの状態によっては化学療法を行っています。輸血の場合、症状が重い方だと週に何度もしなくてはなりませんでした。それは、患者さんにとって非常に負担が大きいものです。そこで、3年前から日本でも承認された「アザシチジン」という薬剤を投与する化学療法を始めています。アザシチジンの投与によって造血幹細胞の異常がなくなるものではありませんが、造血幹細胞の造血能力は改善します。そうなると、これまで輸血に頼りきりだった患者さんでも、輸血が不要になるところまで回復することがあります。また、白血病への進行を遅らせるという効果もあります。

―期待されている治療法はありますか?

骨髄異形成症候群の原因解明が進み、遺伝子異常に対する分子標的薬の開発も数多く行われているため、今後、化学療法はさらに進歩すると思います。たとえば、ある遺伝子異常を持っている人にはこの薬、別の遺伝子異常を持っている人にはこの薬というように、原因のタイプに応じた薬の登場に期待しています。

―骨髄異形成症候群と診断されたらどうしたら良いでしょうか?

骨髄異形成症候群は、食生活や毎日の生活で予防したり、進行を食い止めることは難しい病気です。病状、年齢、全身の状態などによって適切な治療法がありますので、主治医とよく相談しましょう。

高橋先生が解説
「骨髄異形成症候群について覚えておいてほしい事」

まだ予防法が見つかっていない骨髄異形成症候群。 もし、原因不明の貧血や、知らないうちにあざができているなどの症状がある方は、近くの病院で血液検査を受けるか、最新の健康診断の結果を持ってかかりつけ医に相談されるのも良いと思います。治療法はどんどん進歩しているので、あきらめずに医師とコミュニケーションをとり、前向きに治療と向き合っていただけると良いですね。

出典:三井記念病院広報誌『ともに生きる』(Vol.11、2014年7月23日発行、三井記念病院 広報部)

関連リンク

高橋 強志 (血液内科 部長)

高橋 強志血液内科 部長

1992年
東京大学医学部 卒業

1994年
東京大学 第3内科

1999年
東京大学医学系大学院 卒業

2000年
東京大学 輸血部 助手

2003年
アメリカ スタンフォード大学 留学

2007年
東京大学 血液腫瘍内科 講師

2010年
三井記念病院 血液内科 部長

 

学会認定

日本自己血輸血学会/日本輸血・細胞治療学会認定自己血輸血責任医師

日本血液学会認定血液専門医・指導医

日本がん治療認定医機構認定暫定教育医

日本がん治療認定医機構がん治療認定医

日本内科学会認定総合内科専門医

日本輸血・細胞治療学会認定医

日本医師会認定産業医

 

専門分野

血液内科学

免疫学

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