すすむ医療 頭蓋内微小血管減圧術
「頭蓋内微小血管減圧術」とは片側顔面痙攣、三叉神経痛、舌咽神経痛に対してそれぞれの神経を圧迫している血管を離す、つまり減圧する、という手術方法のことを呼びます。他に「神経血管減圧術」とも呼ばれます。こちらの方が手術名としては理解しやすいかと思いますが、日本における正式な保険手術病名は「頭蓋内微小血管減圧術」です。米国のMicrovascular Decompressionに由来し、略してMVDと呼ばれたり、この手術を普及させた医師の名前をとって「ジャネッタの手術」と呼ばれることもあります。「手術は脳幹部(図の赤の部分)にアプローチしなくてはなりません。三叉神経痛の場合には小脳の上の方向から(青矢印・上)、片側顔面痙攣・舌咽神経痛は小脳の下の方向から(青矢印・下)からアプローチします。いずれの場合も全身麻酔下に身体を横に向け(側臥位)、耳の後ろを切開し、頭蓋骨に500円玉程度の大きさの穴を開けて行います。
当院で行っているこの減圧術の特徴として「トランスポジション法」が挙げられます。トランスポジション法とは神経から血管を離して、吊り上げて固定する方法により、神経と血管を完全に離す方法です。一方で血管と神経の間に緩衝剤を挟む方法を「インターポジション法」と呼びます。確実な減圧を行うためには神経と血管の間には何もない方がよいという考えから、当院ではトランスポジション法を基本としております。インターポジション法よりは技術的に難易度は上がりますが、完全に接触がとれるという観点からは治癒率が向上し、なおかつ再発率が低下すると考えられており、当院では良好な成績を維持しております。
気をつけなければいけない合併症の一つに、片側顔面痙攣術後における聴力障害があります。顔面神経と聴神経が並行して走行しているという理由により、顔面神経への減圧術を行う際に聴神経に負荷がかかり、聴力低下を来すことがあります。そのため、手術中には聴性脳幹反応(ABR)モニターと呼ばれる聴力のモニターを行いながら注意深く手術を行うことで、当院の聴力障害の出現率は非常に低く抑えられています。
この手術治療を通して「患者さんの苦しみを根本からなくす」ということに全力で向き合って行きたいと考えています。
出典:三井記念病院広報誌『ともに生きる』(Vol.14、2015年4月20日発行、三井記念病院 広報部)