医療最前線 前立腺がん

1.前立腺とはどんな臓器? どんな役割?

前立腺は、膀胱のすぐ下にある20グラムほどの小さな臓器です。前立腺の中央には尿道が通っていますが、排尿に直接かかわる役割をもっているわけではありません。前立腺は前立腺液と呼ばれる精液の一部を分泌し、精子の成熟を促したり運動性を与えたりする役割をもった男性生殖器の一つです。

2.前立腺がんを発症するとどのような症状が出ますか?

初期の前立腺がんには特有の症状はありません。ほとんどの場合、血液中の腫瘍マーカーである前立腺特異抗原(PSA)の測定によって発見されています。排尿の症状(排尿困難や頻尿など)が前立腺がん発見のきっかけになることもありますが、多くは良性の疾患である前立腺肥大症を同時に発症しているためです。一方、進行した前立腺がんでは血尿や排尿時の痛みが出たり、骨への転移によって腰痛や足のしびれなどの症状が出たりすることがあります。

3.検査方法は?

血液中の腫瘍マーカー(PSA)の測定が最も効率的な検査方法です。人間ドックや市町村のがん検診として取り入れられていることもありますので、50歳以上の男性でPSAを測定したことのない方はぜひ測定してみてください。確定診断には前立腺の組織検査が必要です。直腸内に超音波のセンサーを挿入して前立腺を観察しながら前立腺に針を刺して組織を採取します。10~20本ほどの組織を採取しますので、通常入院で麻酔を併用して行います。

4.治療法は?

初期の前立腺がんで、75歳以下であれば手術や放射線治療によって治癒が期待できます。前立腺がんは一般に進行がゆっくりとしていることが多く、条件によっては無治療で経過を見ることが可能な場合もあります。高齢者や合併症のある患者さん、進行期の前立腺がんの患者さんではホルモン治療(男性ホルモンを抑制する注射を主に行います)によって病気を抑えることができます。ホルモン治療は手術や放射線治療の補助として使われることもあります。ホルモン治療に抵抗性の前立腺がんでは抗がん剤が使用されることもあります。前立腺がんは治療法が多岐にわたっており、進行度だけでなく年齢や併存疾患によってさまざまな選択肢があります。主治医とよく相談して治療法を決めることをお勧めします。

5.前立腺がんにならないために

残念ながら前立腺がんにならないための確実な方法はありませんが、西洋風の食事によって前立腺がんの発症率が高くなることが知られています。脂肪の多い、肉食中心の食事を避けることによって成人病対策にもなりますので、気をつけるようにしましょう。

出典:『三友新聞』(2015年9月3日発行、三友新聞社)

関連リンク

榎本 裕 (泌尿器科 部長・がん診療センター 副センター長)

榎本 裕泌尿器科 部長・がん診療センター 副センター長

1994年
東京大学医学部 卒業
東京大学医学部附属病院 研修医
国立国際医療センター 研修医
1995年
東京大学医学部附属病院分院 泌尿器科
1996年
東京逓信病院 泌尿器科
1998年
東京大学 泌尿器科 助手
2004年
アメリカ ボストン大学 Research Fellow
2006年
東京大学 血液浄化療法部 講師
2007年
東京大学 泌尿器科男性科 講師
2012年
東京大学 腎疾患総合医療学講座 特任准教授
2013年
三井記念病院 泌尿器科 部長
2015年
がん診療センター 副センター長(兼任)
2016年
地域医療部 部長(兼任)
学会認定
日本泌尿器科学会泌尿器科専門医・指導医
日本透析医学会専門医
日本泌尿器内視鏡学会腹腔鏡技術認定医
日本内視鏡外科学会腹腔鏡技術認定医
日本がん治療認定医機構がん治療認定医・暫定教育医
専門分野
泌尿器悪性腫瘍
腎不全
  • 三井記念病院TOPページヘ
  • 求人一覧
  • お問い合わせ

ページの先頭へ