わたしの来た道 vol.13 (三瀬 直文)
私は西日本の田舎町で育ちましたが、今ではすっかり東京暮らしの方が長くなり、その過半の期間を三井記念病院で勤務しています。
医師になった最初の1年を大学病院の研修医として過ごした後、三井記念病院に赴任しました。当院は、先代、先々代の腎臓内科部長を務められた多川齊先生、杉本 徳一郎先生のもと、1973年という早い時期から透析治療に取り組んでおり、アクティビティが高いことで有名な病院でした。多くの先輩医師の方々にご指導いただきましたが、特に多川先生、杉本先生には、透析をはじめとする腎臓内科の基本から実践まで、多くのことをご教授いただき、この経験が現在の私の診療の基礎となっています。
腎臓内科は、慢性腎炎やネフローゼ症候群、腎不全など、腎臓に起こる内科的な病気を広く取り扱います。一方で、腎臓病以外の原因で全身状態が悪くなったために、腎臓の機能が落ちてしまうこともよくあります。実際、我々は「腎臓そのものが悪くなる病気」を診療することも少なくないのですが、他臓器や全身の状態が悪くなったために腎臓に問題が起こるケースや、透析患者さんを腎臓以外の病気で診療するようなケースがとても多いのです。例えば、腎臓のはたらきが急に悪くなる急性腎不全は、腎臓病が原因の場合より、腎臓以外に原因がある方が圧倒的に多いとされています。この様な事情から、腎臓内科では、他の診療科のスタッフと協力して診療する機会が非常に多くなります。また、医療の多くの分野にあてはまることですが、我々が中心を担う透析療法も、医師だけでなく、看護師、栄養士、臨床工学技士など、多くの職種の共同作業でなりたっています。三井記念病院は熱意のあるスタッフが多いだけでなく、診療科の垣根が低く、チーム医療を得意とし、やりがいを持って働くことのできる病院です。
腎臓病は完治するものもありますが、長い間お付き合いが必要な慢性の病気が高い割合を占めます。腎臓のはたらきは加齢とともに低下するため、高齢になってから腎臓が悪いといわれる方も数多くいらっしゃいます。この様な場合、生活習慣の管理が重要で、万全でない腎臓を大事にしながら生活することが大切になります。2010年から、腎臓病の患者さん対象の腎臓病教室を始めました。医師と看護師あるいは栄養士から、腎臓病とのつきあい方をお話ししていますが、この様な機会を通じて、少しでも地域の患者さんのお役に立てればと思っています。
腎臓内科、血液浄化部には、長く通院いただいている患者さんも大勢いらっしゃいます。経過の長い方々は、昔の医師や看護師のこともよくご存じで、時々透析室に顔を見せてくださり、それが我々の励みになっています。「ともに生きる」が当院のモットーですが、患者さんとともに歩む医療が実践できればと思っています。
出典:三井記念病院広報誌『ともに生きる 』「智情意」(Vol.18、2016年4月22日発行、三井記念病院 広報部)