研修医の動線をあえて臓器別の方向で整理

長い歴史と高度な専門医療を誇る名門・三井記念病院が今、研修医教育の改革に取り組んでいる。 昨今のトレンドであるジェネラルを追求する体制を見直し研修医の動線をあえて臓器別の方向で整理するといった先駆的な試みを牽引するのは4月から本格稼働し始めた総合内科の部長を務める中島啓喜氏だ。

医療の高度化と疾病構造の変化でジェネラルな研修の見直しが必要に

武田 研修医教育の改革に乗り出されたとのことですが、これまではどのような研修が行われていたのでしょうか。

中島 当院では従来、内科病棟が臓器別になっていませんでした。したがって研修医はローテートせず、内科全般を幅広く学ぶ研修が行われていました。

武田 昨今のトレンドとも言える、ジェネラルな力を身につけられる研修が以前から行われていたのですね。

 しかし、あえてそこに手を入れることにした――。

中島 理由は、大きく2つあります。

 まず、医療技術の著しい高度化です。先ほどお話ししたとおり、当院の内科病棟は臓器別ではなく混合でしたので、指導医の専門性にマッチしない患者もいました。無論、同じ内科ですから専門でなくてもある程度の指導は行うことができ、実際、それでいわゆる“ジェネラルな研修”ができていました。しかし、時代とともに高度な専門技術が要求される症例が増え、専門外の指導医では対応が難しいケースが目立つようになってきました。

 2つ目が、疾病構造の変化です。高齢化により複数の疾患を抱えた患者が増加し、内科病床の割合が大きく増えました。

 当院の病床は482床ですが、10~15年前までは、内科で担うのは150床ほど。この程度の病床数であれば指導医が自分の専門の患者を診つつ、専門外の患者が出てきた場合には他の該当する専門の指導医と協力し合いながら研修医の指導をする環境を保つことが可能でした。

 ところが、現在、内科の担当病床は約220床と約1.5倍にまで膨れ上がり、専門外の疾患で前述のような協力体制の維持が難しくなってきてしまったのです。

武田 ローテートしなくとも、混合病棟で専門外の分野も学べるのが貴院の研修の特色だったわけですが、いつしか研修医が安心して研修を受けられる基盤が揺らぎかねない事態となっていったのですね。

「臓器別」をバランス良くとり入れより集中して深く学べるように

武田 研修体制の見直しにいたった経緯はよくわかりました。そこで、研修体制の改革に向けて具体的にはどんな方策を?

中島 解決策として、院長の指揮のもと、内科系診療科だけでなく、外科や看護部、病床管理部からも協力を得て、大規模な病棟再編を行いました。内科系の病棟を入院棟の高層フロアに集中させたうえで、ある程度、臓器別で分けたのです。

 これにより、研修医は希望して配属された病棟で、従来のジェネラルな研修を行う一方、専門分野の指導医から、先端的な部分も含めた指導をしっかりと受けられるようになりました。

 実は、病棟再編は、ほかにもメリットと言える変化を生み出しました。従来の研修医の動線は非常に長く、あちこちの病棟を出たり入ったりしていたので、看護師に顔と名前を覚えてもらえないような状態でした。しかし、今では担当の患者がひとつの病棟に集まっているので動線が短くなり、一定の場所にいる時間が長くなったため、「○○先生の担当している患者さんの具合が良くないですよ」といった言葉を看護師からかけられる機会も増えたようです。

武田 そうした変化は、患者にとっても有益ですね。とはいえ、医療界を見まわすと、現在の研修医教育は、臓器別の“縦割り”のやり方を離れ、ジェネラルな研修に力を入れる傾向にあります。貴院の取り組みは、このような流れに逆行しているとも言えるのではないでしょうか。

中島 ご指摘のとおり、臓器別研修にはときに弊害もあると思います。しかし、研修医が指導医から十分な教育を受けられず、不安さえ覚えるようであれば、そもそも研修で大切な体系的な学習の達成などは困難でしょう。

 ですから、初期研修のある程度の期間であれば臓器別に分かれて指導を受けるのは有益だと考えます。

4月から総合内科を本格稼働抜け落ちる患者の発生を防ぐ

武田 研修医教育の体制が緩やかな臓器別の方向で整理される一方で、気になるのは臓器別の区分に当てはまらず、病院内をさまよってしまう患者が生まれる可能性です。

中島 その点への対策として、今年4月、総合内科が本格稼動することになり、私が責任者として部長に着任しました。

 どの診療科が受け持てば良いのか判断できない症状を抱える患者は、宙ぶらりんのまま放置されがちです。医療者として、そのような状況は絶対に見すごせません。総合内科が責任を持ち、的確な診療を行います。

 医療のセーフティネットから抜け落ちてしまう患者の発生を防ぐ役目を果たす総合内科の発展は、当院の診療レベルの底上げにもつながるので、ぜひとも充実させていきます。

武田 高齢化によって複数疾患を抱えた患者が増加するにつれ、総合内科に対する患者ニーズは拡大すると推測されますが、そうした状況を背景に、「総合内科を学びたい」と考える研修医も増えるはず。貴院の総合内科では今後、研修医教育も手がけるのですか。

中島 今秋、スタッフを増員して診療体制を強化する予定で、将来的にはジェネラル志向の研修医を受け入れたいと考えています。「三井記念病院の総合内科で勉強したい」と研修医に言ってもらえるような科をめざしたいですね。

もっとも多い患者は地元住民だからこそ教育病院であるべき

武田 貴院は「三井」ブランドを背負っているせいか、患者にとって受診のハードルが高く、全国各地から高度な医療を求めて紹介患者が来院するイメージを持っていました。ですから、専門とともにジェネラルに診る力の教育も重視する研修病院だった事実は、正直、意外でした。

中島 当院では2次救急を行っており、救急入院患者の7割が内科に入院します。そして、病院の住所こそ、東京都心の千代田区ですが、病院前の通りの向こう側は下町の台東区。実のところ、当院の患者でもっとも多いのが、地元とも言える台東区の方々です。高齢者の方も多く、そのため、複数の疾患を持っており、総合的な診療の視点を持つことが要求されています。

 さらに、そもそも当院の発祥は、100年以上前に設立された「三井慈善病院」という、貧困者を無料で診療する慈善病院にさかのぼります。伝統的にも「地域医療」を手がけている医療機関であります。だからこそジェネラルに診る力も持ち合わせた医師の育成が求められる教育病院であるべきなのです。

武田 新たな体制はまだまだ始まったばかりです。最後に、今後に対する意気込みをお聞かせください。

中島 研修医教育システムの改善は診療そのものの改善であり、研修医が安心して研修を受けられるということは、患者が安心して医療を受けられることと同じ意味であると考えております。ですから、良い研修医教育を行えなければ当院の医療に未来はないとの危機感を持ち、背水の陣で臨んでいきます。

 私は、当院に受診する多くの皆さんと同じ台東区で生まれ育ちました。加えて、医師としてのキャリアの大半を当院ですごしてきました。まさに、この地域に育てられたと言って過言ではありません。当院の医療をより良くすることで、地域へ“恩返し”をしていく所存です。

出典:『Primaria』(Vol.18、株式会社ファーマシー)

中島 啓喜臨床検査科 部長・総合内科 部長

1991年
東京大学医学部 卒業
東京大学医学部附属病院 第1内科 研修医、同院 第4内科 研修医
1992年
社会保険中央総合病院 内科 研修医
1993年
三井記念病院 内科
1997年
東京大学医学部附属病院 第1内科
1998年
東京大学大学院 医学系研究科 博士課程
2000年
三井記念病院 循環器内科
2002年
東京大学大学院 医学系研究科 博士課程 終了
2002年
三井記念病院 循環器内科 医長
2004年
循環器内科 科長
2011年
臨床検査科 部長
2016年
総合内科 部長(兼任)
専門分野
内科一般
循環器

武田 宏『Primaria』発行人

製薬会社勤務を経て渡米し、現地で薬剤師が市民から尊敬される職業であると知り、感銘を受ける。1976年保険薬局の株式会社ファーマシィを設立、代表取締役に就任。現在、薬剤師向け情報誌『ターンアップ』編集長を兼務。

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