わたしの来た道 vol.14 (五十川 陽洋)
私の本籍地は岐阜ですが、おもに中部地方(名古屋、浜松)で育ち、大学入学のため上京してから東京で生活しています。東京で学ぶことのメリットは、志が高く視野が広い人たちとの出会いでした。大学では基礎医学および臨床疫学に携わり、2003年に三井記念病院に赴任してからは臨床医学一筋ですが、今に至るまでそのメリットを実感し続けています。医学や治療学は日進月歩です。自分の専門分野についてはもちろん他分野に関しても病院にいながらにして学ぶ機会は多く、また都内での勉強機会も多い。製薬企業では情報提供担当者(MRさん)のみならず、学術担当や研究開発担当者と交流する機会もあります。東京都中央部で東京大学の近くに立地する三井記念病院は、現在の治療の問題点や今後の進歩の見通しまで把握しやすい環境であり、医師として大変やりがいのある職場です。
医学には科学的な側面と、人間存在に向き合う医療行為としての極めて人間的な側面があります。三井記念病院の髙本病院長が掲げる医療理念は「ともに生きる」。当院の医療理念は、「患者の生命を大切にし、患者とともに生きる医療を行い、より良い社会のために貢献します」です。その医療理念のモチベーションは、生命に対する畏敬の念、人間存在に対する慈しみあるいは愛、ではないかと思います。そこには理屈や理論は存在しません。病院にくる患者さんは、かならず何らかの不安や恐れを抱いています。その患者さんと対峙し、問題点と解決法を自らの専門知識を用いて明確にし、それをご理解頂けた時には、患者さんの表情は希望を持ち明るい表情に一変します。私の専門分野である糖尿病では、そういう瞬間は初めて病院を訪れた患者さんと向き合う時に起きやすい。まさにそういった時が、医師になって良かったと実感する時です。
根治が望めない病態と直面する時も当然あります。患者さんは、その状況から逃げ出すことはできません。私の場合だと、糖尿病で担当している患者さんが難治性の癌に罹患した時など。誰にとってもつらい状況ですが、その場合も生命に対する畏敬の念を持ち前向きに生き抜く、少しでもその手助けができる内科医でありたいと思います。
出典:三井記念病院広報誌『ともに生きる』「智情意」(Vol.19、2016年10月18日発行、三井記念病院 広報部)