医療最前線 狭心症
1. 狭心症とは?
心臓は血液を全身に送り出すポンプの働きをしている臓器で、1日に約10万回全身に血を送り出します。心臓の表面を冠動脈という動脈が走行し、この冠動脈から酸素と栄養が心筋に送られ、心臓は拍動します。冠動脈は右冠動脈と左冠動脈からなり、左冠動脈は更に前下降枝と回旋枝という大きな二本の血管にわかれます。動脈硬化が進行すると冠動脈の内腔が狭くなり、心筋への酸素と栄養が不足します。このような病態を総称して虚血性心疾患と呼びます。虚血性心疾患の中で、労作時にのみ十分な酸素や栄養が供給できないために症状がでる場合を労作性狭心症といいます。また、経過とともに症状が増悪している場合や労作時に加え安静時にも症状が出る場合は不安定狭心症と呼ばれ、心筋梗塞の前段階であり危険な状態です。
2. どのような症状がでますか?
朝通勤時に歩いたり、階段を上ったりと、労作時に前胸部が締め付けられる感じ(前胸部圧迫感)がして、数分休むと消失するといった症状が典型的な症状です。しかし、前胸部圧迫感以外にも息切れや左肩の痛みや顎の痛みなど人により症状は異なります。冠動脈危険因子(高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙、虚血性心疾患の家族歴)が複数ある方は、上記症状がでた場合は特に注意が必要です。また、夜間や明け方の安静時に前胸部が締め付けられる等の症状が生じる狭心症は、異型狭心症と呼ばれ冠動脈の攣縮により生じ、日本人に多いと言われています。
3. 治療法は?
虚血心筋の範囲により治療法は異なります。冠動脈の分枝や末梢の血管に狭窄がある場合、異型狭心症の場合は薬物治療が行われます。一方、冠動脈の本幹等に狭窄があり、虚血領域が比較的広い場合はカテーテルを用いて、冠動脈の狭窄部に免疫抑制剤を溶出するステントを留置する治療(PCI)が行われます。日本では年間約22万件のPCIが行われています。今年中には、ステントそのものも生体分解され消失するスキャフォルドが使用できるようになります。また、左冠動脈の主幹部や冠動脈が三本すべて狭窄しているような虚血領域が広範な場合は冠動脈バイパス手術が選択されることもあります。
4. 検査法は?
心電図、運動負荷心電図、心臓超音波等でスクリーニングを行い、狭心症が疑われる場合は運動負荷RI(ラジオアイソトープ)検査や冠動脈CTを施行します。近年では造影剤を使用せず放射線被曝のないMRIで冠動脈を評価することも可能となっています。これらの検査で冠動脈の狭窄が認められた場合は確定診断のために冠動脈にカテーテルを挿入して造影する冠動脈造影検査を行います。最近では、冠動脈造影検査は主に手の橈骨動脈より行われ、検査後の安静時間が短縮され、出血合併症も低減されています。
出典:『三友新聞』(2016年8月4日発行、三友新聞社)