医療最前線 前立腺肥大症

1.前立腺肥大症とは?

前立腺は膀胱のすぐ下にある20グラムほどの小さな臓器で、中央に尿道が通っています。加齢とともに前立腺の尿道周囲の部分が腫大することにより前立腺肥大症が起こります。30歳代から前立腺肥大症の組織学的な変化が始まり、60歳代で60%、80歳代では約90%で変化が見られます。前立腺肥大症による症状が出て治療が必要となるのはその4分の1程度と言われています。

2.症状は?

前立腺が肥大して尿道を圧迫することにより、尿の勢いが弱くなったり、排尿に時間がかかるようになったりします。また、肥大した前立腺が膀胱を刺激することによって、排尿の回数が増え(頻尿)、尿意を我慢することが難しくなって(尿意切迫)、我慢しきれずに尿が漏れてしまうようになったりします(切迫性尿失禁)。前立腺肥大症が進行すると尿が全く排出できなくなることもあります。(尿閉)また、血尿や膀胱結石、尿路感染症、腎不全などの合併症をきたします。前立腺肥大症を放置すると暴行機能が低下し、症状はさらに悪化することになります。

3.検査方法は?

直腸指診のほか、超音波検査によって前立腺の肥大を診断します。排尿の自覚症状は「国際前立腺症状スコア」などの質問票によって評価します。排尿状態の診断のためには、病院で測定器に排尿していただき、尿量や流速を測定する「尿流量検査」を行います。排尿後には超音波検査によって残尿を測定します。このような検査の結果を総合的に判断して前立腺肥大症の診断を行います。前立腺癌の合併がないかどうか、血液中の腫瘍マーカー(PSA)を測定することも大事です。

4.治療法は?

症状が軽度の場合は内服薬による治療を行います。前立腺の過度の収縮を抑制する「α遮断薬」、前立腺に作用する男性ホルモンを現象させる「5α還元酵素阻害薬」、膀胱・前立腺の血流を改善する「PDE5阻害薬」ほか、漢方薬や植物エキス製剤を用いることもあります。前立腺に直接作用するのではなく、膀胱の活動性を抑えて頻尿や尿意切迫を改善する「抗コリン薬」や「β3刺激薬」などを使用することもあります。

薬剤治療の効果が十分でないときには手術を行うことがあります。肥大した前立腺の内側部部分を電気メスで削る取る手術が最もよく行われていますが、レーザーを用いた切除あるいは、肥大した組織の蒸散も行われています。レーザーによる手術は、より出血が少なく、体に優しい手術とされています。

5.予防法は?

残念ながら前立腺肥大症にならないための確実な方法はありませんが、肥満、高血圧、高血糖および脂質異常症と前立腺肥大症の関連が報告されています。適正な食事と適度な運動を心がけましょう。

出典:『三友新聞』(2016年11月10日発行、三友新聞社)

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榎本 裕 (泌尿器科 部長・がん診療センター 副センター長)

榎本 裕泌尿器科 部長・がん診療センター 副センター長

1994年
東京大学医学部 卒業
東京大学医学部附属病院 研修医
国立国際医療センター 研修医
1995年
東京大学医学部附属病院分院 泌尿器科
1996年
東京逓信病院 泌尿器科
1998年
東京大学 泌尿器科 助手
2004年
アメリカ ボストン大学 Research Fellow
2006年
東京大学 血液浄化療法部 講師
2007年
東京大学 泌尿器科男性科 講師
2012年
東京大学 腎疾患総合医療学講座 特任准教授
2013年
三井記念病院 泌尿器科 部長
2015年
がん診療センター 副センター長(兼任)
2016年
地域医療部 部長(兼任)
学会認定
日本泌尿器科学会泌尿器科専門医・指導医
日本透析医学会専門医
日本泌尿器内視鏡学会腹腔鏡技術認定医
日本内視鏡外科学会腹腔鏡技術認定医
日本がん治療認定医機構がん治療認定医・暫定教育医
専門分野
泌尿器悪性腫瘍
腎不全
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