すすむ医療 炎症性腸疾患 潰瘍性大腸炎とクローン病

身体にウイルスや細菌が入ったとき、体内から異物を追い出そうと反応するのが免疫システムです。免疫システムが作動するときには、腫れや痛み、発熱などの炎症が引き起こされます。腸内において、免疫が正常に機能せず炎症が過剰に起こり、腸自身を傷つけてしまう病気を炎症性腸疾患といいます。

炎症性腸疾患には主に潰瘍性大腸炎とクローン病という2つの病気があります。これらは慢性の病気であり、難病に指定されています。

症状は似ていても、発生部位や進行が異なる

―2つの病気の違いは何ですか?

大きな違いは、炎症の起きる箇所です。潰瘍性大腸炎では大腸のみに病変が現れ、直腸から徐々に広がり、粘膜の表層が腫れ上がるのが特徴です。一方、クローン病は小腸・大腸・肛門を中心とした消化管全体が対象であり、一箇所にとどまらずとびとびに病変が発生し、腸の壁の深い部分へと炎症が進行していきます。したがって、腸に穴があいてしまったり、隣の腸にまで炎症が広がり腸と腸がトンネルを作ってしまったりすることがあります。また、深い腸の傷が治っていく過程で、腸の形が狭く変形してものが通らなくなることもあります。このような腸の変形が起こってしまうことがクローン病の一番の特徴です。

―どのような症状が現れますか?

潰瘍性大腸炎では、下痢と血便が特徴的です。一方、クローン病では、下痢、腹痛の症状が多いですが、発熱や体重減少など、おなかとは直接関係しないと思われる症状が主であることもあります。

潰瘍性大腸炎の患者さんが最も困ることは、急な腹痛と排便の我慢がきかず、コントロールできなくなることです。それにより、日常生活に支障をきたし、外出することすら困難になる場合もあります。一方、クローン病では、おなかの症状の他に、肛門部に膿がたまる痔瘻を併発することが多く、肛門部の不快な症状に悩まされることがしばしばあります。

薬物療法で9割の患者さんが寛解(症状が落ち着いて安定した状態)維持

―治療法を教えてください。

潰瘍性大腸炎、クローン病両方とも慢性の病気のため、薬物療法により炎症を抑え、症状を軽減・コントロールし、日常生活を続けられる状態である寛解を保つことが目的になります。病気とは一生の付き合いになるため、今の症状をコントロールするだけでなく10年、20年先も考えて計画的に薬物治療を続けていく必要がありますが、いずれの病気も患者さんの約9割が寛解を保っています。

潰瘍性大腸炎では、腸の腫れをおさめるために腸の粘膜に付着して効くメサラジンという薬がメインに使われます。より炎症が高度の場合、炎症を抑えたり、免疫力を抑制したりする作用をもつステロイドや、免疫抑制薬を使用して、病勢をコントロールします。

クローン病では、炎症の原因となるTNFαという体内物質の働きを抑える抗TNFα抗体製剤という注射薬が多くの場合効果的です。投薬の仕方は点滴と皮下注射の2種類あり、点滴では2か月に1回程度の通院、皮下注射は2週間に1度、患者さんの自己注射となります。

両疾患とも、他にも様々な治療選択肢があり、われわれ医者は、それらを患者さんの病態やライフスタイルに合わせて使用します。また、今後も新たな薬剤が発売される見込みです。

―手術について教えてください。

潰瘍性大腸炎では、薬物治療で症状が改善せず排便のコントロールができなくなると、最終的な手段として大腸全摘の手術を行う場合があります。病気になる臓器がなくなるわけですから、病気自体は治癒、ということになりますが、大腸がなくなることによる多少の不便(便回数の増加など)を伴います。しかし、手術が必要となった患者さんの多くは手術後の方が生活の質が良くなります。

クローン病においては、変形してしまった腸を手術により切除します。発症して10年で約30%のクローン病患者さんが一度は何らかの手術を受けているという統計もあります。小腸にも病変ができるクローン病は、小腸を切除することがありますが、小腸は栄養吸収の機能をもつ器官であるため、大腸のように全摘出することはできません。変形箇所を切除しても別の箇所にまた変形が生じることもあるため、手術は複数回になる可能性もあります。何度も手術になるようなことを避けることが、クローン病診療において最も重要な課題です。

―腸管以外で起こる合併症について教えてください。

潰瘍性大腸炎、クローン病両方に起こりうる合併症として、皮膚に特殊な湿疹が出たり、関節に痛みが出たりすることがあります。過剰に働いている免疫システムによる症状と考えられています。

クローン病の肛門病変も合併症ととらえられるかもしれません。肛門病変が悪化し、症状がつらいときには、手術を行ったり、場合によっては人工肛門を取り付ける患者さんもいらっしゃいます。

―がんのリスクはありますか?

大腸の長期にわたる炎症が、がんにつながる場合はあります。

潰瘍性大腸炎では、発病して10年以上経過すると、一般の方に比べ大腸がんの発生率が2倍程度になるといわれています。大腸粘膜に炎症があると、がんの初期病変かどうかの判別がつきづらく、発病後も長期間がんに気付かない場合があります。そのため、炎症の鎮静化がなかなか得られない患者さんには、年1回は大腸内視鏡での検査をお薦めしています。大腸がんに発展してしまう患者さんは、薬物療法で病気をうまくコントロールできなかった方に多いことが分かっています。よって普段の治療ががんの予防にもつながると考えられます。

若い世代で発症する病気

―どんな方に発症しやすいですか?

潰瘍性大腸炎、クローン病両方とも若い方に発症することが多い病気です。潰瘍性大腸炎では20代を中心に幅広い年代で発症しているのに対し、クローン病では10代後半から20代前半に集中している点が特徴です。

なぜ若い人に起こりやすいのかについては、分かっていないことも多いですが、もって生まれた遺伝的素因や腸内細菌などの腸内環境、近年の衛生状態や食事の変化など、原因は一つではないと考えられています。親から子へと遺伝する病気ではありませんが、血縁に同じ病気の方がいる場合、多少発症しやすい傾向にあります。

患者さん一人ひとりの人生のステージに合わせた治療法を提案

―三井記念病院の治療の特徴を教えてください。

炎症性腸疾患は若い方に発症し、長く付き合わなければならない病気です。若い方は特に、学業や仕事を続ける必要があり治療だけに集中することが難しい状況にある場合が多いです。そのため、病態を把握するだけではなく、患者さんが抱えている事情と、病気によって何が一番困るのかをしっかりとお聞きして、それぞれの社会状況に合わせた細やかな治療法を提案しています。また、人生のステージが変わることで困り事も変化します。その時々で治療法を検討し方針を変えながら、生活の質を下げない丁寧な治療を提供しています。

加藤先生が解説
これだけは知っておいてほしいポイント

  • 潰瘍性大腸炎とクローン病は、どちらも消化管に炎症が生じる慢性の病気のため、発症したら一生の付き合いになります。しかし、計画的な薬物療法により寛解を維持することで、多くの場合問題なく日常生活を送ることが可能です。
  • 若い世代で発症するため、治療に専念できない方も多いですが、医師としっかり相談し、自身の生活の質を下げない治療法を選択しましょう。

出典:三井記念病院広報誌『ともに生きる』(Vol.26、2018年4月24日発行、三井記念病院 広報部)

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加藤 順 (内視鏡部 部長)

加藤 順内視鏡部 部長

1993年
東京大学医学部 卒業
東京大学医学部附属病院 内科
1994年
社会保険中央総合病院 内科(現:東京山手メディカルセンター)
1995年
亀田総合病院 消化器内科
1997年
東京大学 消化器内科
2001年
日本赤十字社医療センター 消化器内科
2003年
岡山大学 消化器・肝臓内科
2010年
和歌山県立医科大学 第二内科 准教授
2018年
三井記念病院 消化器内科 内視鏡診療部長
内視鏡部 部長
学会認定
日本消化器病学会認定消化器病専門医
日本消化器病学会認定施設における指導医
日本消化器内視鏡学会認定消化器内視鏡専門医・指導医
日本内科学会認定総合内科専門医
専門分野
炎症性腸疾患
大腸内視鏡
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