医療最前線 僧帽弁閉鎖不全症
1.僧帽弁閉鎖不全症とは?
心臓は、全身に血液を循環させるポンプの役割をはたしています。血液の流れを一方向に維持するために、4つの弁が開閉を繰り返しており、僧帽弁は左心房と左心室の間に位置しています。僧帽弁が開放し血液は左心房から左心室に移動し、その後閉鎖することで逆流を防ぎます。僧帽弁の構造は2枚の弁葉から成り、閉鎖時にこの接合がうまくいかないと血液が左心室から左心房へ逆流してしまいます。この病気を僧帽弁閉鎖不全症(僧帽弁逆流症)と言います。僧帽弁閉鎖不全症の原因には主に2つあります。ひとつは僧帽弁が変性し、僧帽弁を支える腱索などの組織が断裂してしまうことで弁の接合が悪くなり逆流が生じるもので、「器質性僧帽弁閉鎖不全症」と言います。もうひとつは、僧帽弁やその支持組織に器質的な問題はないものの、左心室の収縮性低下や拡大によって、僧帽弁が十分に閉鎖できず逆流が生じるもので、「機能性僧帽弁閉鎖不全症」と言います。
2.どのような症状がでるか?
平地歩行や階段昇降といった労作時に息切れや動悸を自覚したり、慢性的な足のむくみが生じます。多くの場合症状は、緩徐に出現します。しかし、弁を支える組織の断裂や心房細動などの不整脈を合併すると急激に血行動態が悪化し、安静時であっても突然の息切れを認めることがあります。また、自身で徐々に活動範囲を狭めることで息切れは軽減されますが、診断の遅れにつながる可能性があり注意が必要です。
3.検査法は?
基本は問診と診察になりますが、経胸壁心臓超音波検査は必須の検査になります。胸に超音波装置をあてることで、弁の形態や弁逆流の重症度、さらに心臓のポンプ機能などを評価することができます。安静時の超音波検査では、時に僧帽弁閉鎖不全症の重症度を過小評価することがあり、必要により運動負荷心臓超音波検査を施行します。さらに僧帽弁の形態を詳細に評価するために、経食道心臓超音波検査を検討します。
4.治療法は?
まずは内服や点滴治療といった内科治療を開始し、息切れやむくみの治療を行います。内科治療のみでは逆流のコントロールが困難なこともあり、自身の弁組織を温存した「僧帽弁形成術」や人工弁に置き換える「僧帽弁置換術」といった開胸手術を検討します。しかし、高齢、様々な既往疾患、以前の開胸手術の既往などがあると、開胸手術のリスクが高くなるため、「経カテーテル僧帽弁形成術(MitraClip法)」が検討されます。これは足の付け根の静脈からアプローチして、僧帽弁前尖と後尖の接合が悪い部分にクリップをすることで逆流を減らす治療になります。MitraClip法は2018年4月から日本でも実施可能となった治療法で、当院でも2018年12月導入に向けて取り組んでいます。
出典:『三友新聞』「医療最前線」(2018年10月18日発行、三友新聞社)