わたしの専門

医療最前線 肺癌

1.肺癌とたばこ

目を留めた方の多くは喫煙者であろうと予想されます。以前は、町中でも喫煙者を多く見かけましたが、肺癌のリスク要因としては、本人の喫煙の影響が圧倒的に大きいのです。国立がんセンターの予防グループによると、非喫煙者に比べて、喫煙者は男性では4.5倍、女性では4.2倍肺癌になりやすいのです。たばこをやめても、吸わない人に比べて男性では2.2倍、女性では3.7倍高くなっていました。それなら禁煙しても無駄だと思うのは大きな間違いです。喫煙していなければ男性では68%、女性では18%が肺癌にならなかった可能性があります。もちろん環境因子や仕事、食事なども因子として考えられますが、自分の意思で因子をコントロールできる意味は大きいのです。

2.肺癌の分類

肺癌は、大きく分けて(1)扁平上皮癌、(2)小細胞癌、(3)腺癌、(4)大細胞癌の四つに分類されます。このうち、肺の中枢に発生しやすい(1)と(2)は、たばことの関連が大きく、末梢病変の(3)と(4)は、その関連が小さいと言われています。(1)と(2)で検討すると、喫煙者は非喫煙者に比べて、男性では12倍、女性では17倍このタイプにかかりやすいという結果でした。肺癌の中で最も多いのが腺癌で約60%を占めますが、たばこと関係ないわけではありません。腺癌については、喫煙者は非喫煙者に比べて男性では2.8倍、女性では2.0倍かかりやすいという報告があります。腺癌においても喫煙者での発生率が高いことには変わりないのです。

3.肺癌の予防

アメリカ公衆衛生局の報告では、たばこをやめた人の肺癌発生率は、たばこをやめてから10年で約3倍、10~19年では1.8倍、20年以上でやっとたばこを吸わない人と同じです。80歳まで生きようとすれば60歳までに禁煙をすれば肺がん死亡のリスクを減らすことができ、大きな効果が期待できます。当たり前ですが、肺癌で死なないためには肺癌にならないことです。とは言っても非喫煙者でも肺癌になります。最近は女性肺癌患者も多く、「私はたばこも吸わないのに何で肺癌になったの?」とよく聞かれます。腺癌が起こる要因には、たばこ以外に、遺伝や大気汚染、女性では女性ホルモンなどもあると考えられています。

4.肺癌になったら

では肺癌、又は疑いがあると言われたらどうすればよいでしょう?躊躇せずに医療機関を受診し診断治療することです。治療法としては、(1)手術、(2)化学療法(抗癌剤)、(3)放射線などが主な方法ですが、以前に比べてかなり進歩しており単独又は複数組み合わせて治療します。私は呼吸器外科医ですが、手術だけでなく全ての治療を考えて、患者さんにあった治療法を選択し予後を改善する努力をします。肺癌は今や不治の病ではありません。禁煙、受診を先送りせず今を大切にすることが肝心です。

(出典:『三友新聞』2019年6月6日発行、三友新聞社)

池田 晋悟 (呼吸器外科 部長)

池田 晋悟呼吸器外科 部長

1988年
広島大学医学部 卒業
広島大学医学部 外科学第一、生理学第一
1989年
県立広島病院 胸部外科レジデント
1991年
国立大田病院 外科
1993年
西条中央病院 外科
1994年
三井記念病院 循環器センター 外科専門レジデント
1996年
呼吸器センター 外科専門レジデント
1998年
呼吸器外科 科長
2008年
呼吸器外科 部長
学会認定
呼吸器外科専門医合同委員会呼吸器外科専門医
日本胸部外科学会認定医
日本外科学会認定外科専門医
日本がん治療認定医暫定教育医
専門分野
呼吸器外科
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